24時間の照明で体内時計に乱れ 東北大が確認

 生まれたばかりのマウスを24時間明かりを付けたままの状態で育てると、睡眠や覚せいにかかわる「体内時計」の活動が乱れることを、東北大病院周産母子センターの太田英伸助手(発達生理学)らのグループが突き止めた。マウスとヒトは脳のメカニズムが類似している。同様の作用はヒトの赤ちゃんでも起こる可能性があり、夜型化が進むライフスタイルに警鐘を鳴らす結果といえそうだ。

 体内時計はヒトやマウスをはじめ多くの動物や植物が、臓器や組織ごとに備える。脳中心部の「視交叉(こうさ)上核」が睡眠や覚せいを促す信号を送り、“司令塔”の役割を果たしている。

 グループは視交叉上核を制御する「時計遺伝子」の活動を調べるため、マウス50匹の視交叉上核にクラゲの発光タンパク遺伝子を組み込んだ。時計遺伝子が活性化すると光る仕組みで、照明の操作で昼と夜が12時間ずつの環境と、1日中点灯している環境でそれぞれ25匹を育て、3週間観察した。

 昼夜のある環境下のマウスは、数万個の時計遺伝子が1日に1回、ほぼ同じタイミングで光ったが、常に明るい状態の場合はばらばらに点滅。照明を付けたままのマウスは生後50日まで観察した結果、一部は数時間ごとに目を覚ました。

 24時間明るい状態に置いたマウスを昼と夜が区別できる環境下に移すと、睡眠と覚せいの機能は1―2日で回復することも分かった。
 太田助手は「マウスの赤ちゃんは予想以上に、光への感受性が強かった」と指摘。ヒトについては「過剰に心配する必要はないが、育児中の家庭や病院の新生児室で、照明について考えるきっかけにしてほしい」と話している。

 研究は米バンダービルト大との共同で、米国の小児科専門誌「ペディアトリック・リサーチ」に21日発表した。

[体内時計]脳の視交叉上核が時計のように時を刻んで、睡眠や覚せい、血圧などの生理機能の変動を管理していると考えられている。ヒトの体内時計は本来24時間より長いが、太陽光を手掛かりに時間を補正し、1日24時間周期のリズムを刻んでいる。

河北新報) - 8月22日7時1分更新

脳内にあった「腹時計」

 JST(理事長 沖村憲樹)の研究チームは、動物を1日のうち一定の時刻でのみ摂食が可能な環境(時間制限給餌)におくと、これまで特定されていなかった脳内の部位で時計遺伝子が新たに概日周期注1を刻み始め、生存に必須な食行動を食餌の得られる時刻に合わせるように制御すること(食餌同期性)を明らかにしました。
 全ての哺乳動物は、様々な行動パターンを24時間周期で制御する体内時計(サーカディアン・ペースメーカー)注2を持っています。例えばマウスなど夜行性の動物の場合、いつでも餌がある状態では、視神経に直結した脳内の分子時計(「光同期性クロック」)によって、夜は行動・摂食し、昼は眠るように支配されています。しかし、餌が昼間の一定の時間帯でのみ得られる環境に置かれると、マウスはこのクロックを無視して、行動パターンを昼夜逆転させ、餌のある昼間に行動し摂食するように順応することが知られています。ところが、この「食餌同期性」の概日行動パターンを支配しているはずの体内時計がいったいどこにあるのかは、これまで全く不明でした。
 今回研究チームは、通常飼育環境下のマウス(自由給餌)と昼間の一定の時間帯でのみ摂食できる環境に置かれたマウス(昼間制限給餌)からそれぞれ脳を取り出して、時計遺伝子注3の24時間発現パターンをあらゆる脳部位でくまなく比較しました。その結果、脳内の視床下部背内側核と呼ばれる場所において、昼間制限給餌下でのみ時計遺伝子(「分子腹時計」)が24時間周期でスイッチオン・オフし始めることを見出しました。
 近年、ヒトにおいては、睡眠時間や食事の時刻などのライフスタイルと、肥満やメタボリック・シンドローム注4の発症との間に密接な関係があることが注目されています。今回、分子腹時計が脳内のどこに局在するのかが突き止められたことにより、この腹時計がいかにして食餌によって制御され、またいかにして食欲・食行動を支配しているのかを解明してゆくための、最初の突破口が開かれました。将来、ここから肥満や生活習慣病を予防する新たな手段が発見されることが期待されます。
 本研究成果は、JST創造科学技術推進事業(ERATO)柳沢オーファン受容体プロジェクト(総括責任者:柳沢正史 テキサス大学教授)が、東京医科歯科大学難治疾患研究所(三枝理博助手)、ハワード・ヒューズ医科学研究所、およびテキサス大学との共同研究で得たもので、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に2006年7月31日(米国東部時間)付けで公開されます。

<本研究の背景>
 夜遅い時間に間食をする習慣は、良くないと思いながらもなかなかやめられないことがあります。これは、毎日の習慣により体内の時計遺伝子がオンになることによって、知らず知らずのうちに食べ物を探し求めているからかも知れません。
 ヒトをはじめ全ての哺乳動物は、様々の身体機能や行動パターンを24時間周期で制御する体内時計(サーカディアン・ペースメーカー)を持っています。中でも、からだ全体の概日周期を統合するマスター・クロックは、脳内の「視交叉上核」と呼ばれる場所にあります。この体内時計は眼球〜視神経と直結していて、太陽光の有無つまり昼夜の変化に従って、常に24時間周期にロックされているので「光同期性クロック」と呼ばれます。例えばマウスなど夜行性の動物の場合、いつでも餌がある状態では、視交叉上核の光同期性クロックによって、「夜は行動・摂食し、昼は眠る」というように行動パターンが規定されています。しかし、餌が昼間の一定の時間帯でのみ得られるような環境に置かれると(昼間制限給餌)、マウスは光同期性のマスター・クロックを無視して行動パターンを昼夜逆転させ、餌のある昼間に行動し摂食するように順応します。給餌時間の直前数時間には、餌を盛んに探し求める行動が見られます。興味深いことに、光同期性クロックの示す座標である視交叉上核を破壊した動物でも、食餌に同期した概日周期行動パターンは正常に保たれます。したがって、この「食餌同期性」の概日行動パターンを支配しているはずの体内時計(すなわち腹時計)は脳の視交叉上核以外の場所にあると考えられますが、いったいどこにあるのかは、これまで全く不明でした。

<本研究の成果>
 今回研究チームは、マウスを用いた実験で、食餌同期性クロックが脳内の「視床下部背内側核」と呼ばれる特定の場所に局在することを突き止めました。
 研究チームでは、通常飼育環境下のマウス(自由給餌)と昼間制限給餌に順応したマウスからそれぞれ脳を取り出して、時計遺伝子(period遺伝子)の24時間発現パターンを脳の全ての領域でくまなく比較しました(図1)。 period遺伝子は、光同期性クロックのある視交叉上核で昼にオン、夜にオフになることが知られており、その24時間周期のスイッチオン・オフは、時計機構が存在することを示す指標として用いることが出来ます。視交叉上核におけるperiod遺伝子の発現パターンは、二つの給餌条件間で全く変化はありませんでした。一方、視床下部背内側核では、昼間制限給餌下でのみ時計遺伝子が24時間周期でスイッチオン・オフし始めることを見出しました。つまり、昼間制限給餌下では、視床下部背内側核にある「腹時計」が視交叉上核の「光時計」からの指令を乗っ取って、生存に必須な食行動を、食餌の得られる時刻に合わせるように制御することが分かりました。視床下部背内側核におけるperiod遺伝子オン・オフの時間パターンは、一度成立すると給餌するはずの時間に餌を与えなくても二日間維持されました。したがって、period遺伝子オン・オフは単純に毎日の食餌に応答しているのではなく、自律的な食餌同期性クロックとして機能し、給餌のタイミングを記憶していると考えられます。視床下部背内側核以外にこのような性質を示す脳部位は、観察されませんでした。
 以前から得られていた様々な知見と合わせると、脳の視床下部背内側核は、摂食や体脂肪量に関する情報と時間情報とを統合し、様々な身体機能や行動の概日パターンを調節していると考えられます(図2)。

<今後の展開>
 近年、ヒトに於いても睡眠時間や食事の時刻などのライフスタイルと、肥満やメタボリック・シンドロームの発症との間に密接な関係があることが注目されています。総摂取カロリー量の半分以上を夜に摂取する夜間摂食症候群なども知られています。欧米では正常体重群でも0.4%、肥満患者では約15%の罹患率が報告されており、日本でも認知度は低いですが多くの患者が存在すると思われます。また、海外旅行に伴う時差ぼけは、朝に日光を浴びる、夜メラトニンを服用する等と並んで、規則正しく食事をとる、すなわち腹時計を調節することがその解消方法として挙げられます。
 睡眠覚醒や食欲の一日の中での変動は、ヒトにおいてもマウスと同様、「光同期性クロック」と「食餌同期性クロック」とによって支配されています。今回、後者すなわち分子腹時計が、脳内のどこに在るのかが突き止められたことにより、今後、この腹時計がいかにして食餌によって制御され、またいかにして食欲・食行動を支配しているのかを解明してゆくための、最初の突破口が開かれたと思われます。腹時計を調節する、あるいは腹時計からの情報を伝える分子を明らかにしていく事で、将来、肥満や生活習慣病を予防する新たな手段が発見されることが期待されます。

視覚:光景のセグメント化における階層性と適用性

Nature 442, 810-813(17 March 2006)
Hierarchy and adaptivity in segmenting visual scenes
Eitan Sharon, Meirav Galun1, Dahlia Sharon, Ronen Basri and Achi Brandt

Finding salient, coherent regions in images is the basis for many visual tasks, and is especially important for object recognition. Human observers perform this task with ease, relying on a system in which hierarchical processing seems to have a critical role. Despite many attempts, computerized algorithms have so far not demonstrated robust segmentation capabilities under general viewing conditions. Here we describe a new, highly efficient approach that determines all salient regions of an image and builds them into a hierarchical structure. Our algorithm, segmentation by weighted aggregation, is derived from algebraic multigrid solvers for physical systems, and consists of fine-to-coarse pixel aggregation. Aggregates of various sizes, which may or may not overlap, are revealed as salient, without predetermining their number or scale. Results using this algorithm are markedly more accurate and significantly faster (linear in data size) than previous approaches.

画像の中から顕著性および一貫性の高い領域を見つけ出すこと(セグメンテーション)は、多くの視覚的課題の基礎であり、物体認知にはとりわけ重要です。ヒトはこの課題を容易におこなえるが、それは階層的な処理が重要な役割を果たすシステムに頼っていると考えられます。しかし、多くの試みにもかかわらず、これまでのコンピューターアルゴリズムでは、一般的な視覚条件下でロバストなセグメンテーション能力を示すことはできませんでした。本論文では、画像から顕著性の高い部分をすべて決定し、それらを階層的な構造に組み立てるという、新しく効率的なアプローチについて述べます。集合に重みづけするこのセグメンテーションのアルゴリズムは、物理系のための代数的マルチグリッド解法に由来し、細かいものから粗いものまでさまざまな画素の集合で成り立っています。集合の数やスケールをあらかじめ決めずに、互いにオーバーラップする、またはしない、種々のサイズの集合体を画像特徴として提示します。このアルゴリズムを適用した結果は、従来のアプローチより精度が大幅に高く、演算速度も大きく向上しました(データサイズに比例する)。

近縁認識の学び方

nature 2005年4月28日号

 鳥類は,さえずりを学習することで,自分の近縁者の区別も学ぶらしい。
 エナガという鳥は毎年つがいで繁殖する。しかし,そのほとんどの巣は略奪され,破壊される。その後,巣の修復が繁殖期に間に合わなければ,かわりにほかの巣の子育てを手伝う習性がある。その際,近縁者の育児を優先的に手伝うことで,間接的に自分の遺伝子を残しているという。
 この鳥は「コンタクトコール」とよばれるさえずりを雌雄ともに頻繁に用い,巣作りなどのコミュニケーションを行う。イギリス,シェフィールド大学のシャープ博士らは,この鳥に近縁者と非近縁者の人工的なコンタクトコールを聞かせて,その反応を調べた。その結果,この鳥はコンタクトコールを用いて近縁と非近縁の区別をしていることが確認できた。しかし血縁関係がなくても,同じ育ての親のもとで育ったエナガのひなのコンタクトコールは似ていたという。
 博士らは,鳥の鳴き声には遺伝子よりも,生後の学習が重要な役割を果たす,とのべている。

カナリアの歌の覚え方

Science 2005年5月13日号

 成熟したカナリアは,だれに教わるでもなく,カナリア本来の歌を歌うようだ。
 カナリアなど一部の鳥類の歌は,短い音の単位「音節」が集まって「フレーズ」を形成し,それらを並べて「歌」を形成している。しかし,この「歌」を修得するメカニズムは不明な点が多い。
 アメリカ,ロックフェラー大学のガードナー博士らは,ふ化直後のカナリアを,なかまから完全に隔離して飼育した。そうやって成長したカナリアの歌声を分析したところ,典型的なカナリアの歌を,だれに教わるでもなく自分自身でうみだしていたという。このことから,カナリアの歌の発達には内因的な要因がはたらくことがわかる。一方,本来の歌とは別の人工的な合成音を聞かせて育てると,幼い頃はその合成音を模倣したが,性成熟すると,内因的な要因によって歌の再プログラミングが行われ,カナリア本来の歌をさえずるようになったという。
 博士らは,歌の模倣と歌の内的な要因がはたらく過程は別個のものであり,それぞれことなる時期におきるらしい,とのべている。

警告信号の使い分け

Science 2005年6月24日号

 アメリカコガラは,警告音で捕食者の大きさをなかまに伝えるらしい。
 多くの生物は捕食者を感知すると警告信号を出す。しかし実際にどのような情報が警告音に含まれているかは,不明な点が多い。
 アメリカ,モンタナ大学のテンプルトン博士らは,「アメリカコガラ」という小型の鳥の発する警告音を調べた。この鳥は,繁殖期以外は,6〜8羽の群れで生活し,多種類の捕食者がいることで知られている。博士らがこの鳥に,さまざまな大きさの捕食者を見せたところ,捕食者の体の大きさによって波長がことなる警告音を出したという。また,警告音を聞いた別のアメリカコガラは,発信者のそばに近づいて自分も同じ警告音を出す威嚇行動をとるが,体の小さい捕食者に対したときほど反応がすばやいこともわかった。
 体の小さい捕食者は機動性が高く,危険性が高いと考えられる。すなわちアメリカコガラは,警告音によって捕食者の体の大きさと危険度を伝達し,受信者はそれを聞いて威嚇行動を決めている,と博士らは考えている。

言語の由来をさぐる方法

Science 2005年9月23日号

 発音や文法に注目することで,言語の歴史をさかのぼることができるようだ。
 現生人類が世界各地に拡散しはじめたとき,言語はどのように変化したのかをさぐる研究がある。ことなる言語にも同じ語源があり,つまり共通の「祖語」がもとにあると考えられてきた。しかし,こうした語彙に着目した手法は限界があり,歴史的にたどれてもせいぜい1万年程度であった。
 オランダ,マックス・プランク心理言語学研究所のダン博士らは,系統関係の解明されているオーストロネシアという語族をもとにして,これまで系統不明とされてきたニューギニア地域の諸言語「パプア諸語」について発音体系や文法構造に注目した分析を試みた。その結果,今から数万年前の更新世後期に人類が拡散したとき,パプア諸語は共通の祖語から分岐したと推定された。博士らによると,パプア諸語の間には系統的なつながりがあるという。
 博士らは,この発音や文法に注目する手法を応用することで,世界中の語族関係を追究することが可能になった,とのべている。