脳の右と左の構造の違いを生み出す分子メカニズムを解明

独立行政法人 理化学研究所
脳の右と左の構造の違いを生み出す分子メカニズムを解明

  • 脳の進化の過程・社会行動の制御を探る新たな手がかかりに -

平成19年1月9日
◇ポイント◇

* 発生時期の異なる2種類の神経細胞の誕生により左右非対称な脳構造を形成
* 発生早期に出る信号が2種類の神経細胞の誕生をコントロール
* 脳の右と左の機能解明、進化の過程、社会行動の制御を探る新たな手がかりに

 独立行政法人理化学研究所野依良治理事長)は、発生生物学や遺伝学の分野でモデル動物として注目されるモデル動物、ゼブラフィッシュ※1を用いて、脳の右側と左側の構造の違いを生む発生メカニズムを分子レベルで解明しました。理研脳科学総合研究センター(甘利俊一センター長)発生遺伝子制御研究チームの岡本仁チームリーダー、相澤秀紀研究員らによる研究成果です。
 脳が左右非対称であることは、脊椎動物神経系の基本的特徴の一つです。特定の脳機能を片側に割り当て、反対側には別な脳機能を割り当てる、この様なメカニズムは、情報処理を効率的に行うための仕組みと考えられています。脳の右側と左側に構造的な違いがあることは、哺乳動物、特にヒトで詳しく調べられており、脳の左右非対称の構造と機能には、密接な関係があることが知られています。しかしながら、左右の構造的な違いがどのようにして生み出されるかについては、これまで、まったく明らかにされていません。
 研究チームでは、モデル動物であるゼブラフィッシュを用い、情動と深く関わる「手綱核(たづなかく)※2」と呼ばれる脳の部位に注目し、これまで謎とされてきた脳の右側と左側の構造的な違いが、発生時期の異なる2種類の神経細胞の誕生により生み出されることを発見しました。さらに、その分子メカニズムを探り、個体が発生する早い時期に出る信号が、非対称な神経細胞の誕生を制御していることを世界で初めて突き止めました。
 本研究成果は、進化の過程で、脳の左右がどのようにして異なった機能を持つようになったかをつかむ新たな知見です。さらに、脳の左右非対称性は、機能分担により情報処理を効率化する一方、非対称性の方向(右利きや左利き)や非対称の程度(どの程度左右差があるのか)を通じて、社会行動にみられる協調性を制御しているともされ、このような研究を進める上で有力な手がかりになるものです。
 本研究成果は米国の科学雑誌『Developmental Cell(1月号、1月8日付け・オンライン)』に掲載されます。