脳:視覚剥奪による皮質内抑制の増強

Nature 443, 81-84(7 September 2006)
Arianna Maffei, Kiran Nataraj, Sacha B. Nelson and Gina G. Turrigiano

知覚皮質における回路の微調整には、初期臨界期中の知覚経験が必要である。この臨界期中に視覚が剥奪されると、視覚機能に非常に大きな影響が表れ、遮蔽された側の目からの視覚刺激応答性が失われたり、視覚の精度が低下したり、多くの刺激特徴への感度合わせができなくなったりする。これらの変化は、視床から皮質への軸索の再編成よりも速く起こるが、その原因となる皮質内の可塑性機構は十分にわかっていない。皮質内興奮性シナプスの長期抑圧が、視覚剥奪後の皮質応答性喪失の一般的な機構候補として提案されてきた。あるいは(もしくはそれに加えて)、遮蔽された目の皮質ニューロン活性化能が低下するのは、皮質内の抑制が強まるためとも考えられる。今回我々は、視覚剥奪は皮質第4層(皮質で最初に入力を受ける層)内の興奮性結合には影響を及ぼさないが、高速発火籠細胞(FS細胞)と星状錐体細胞(星錐細胞)との間の抑制性フィードバックを顕著に強めることを示す。さらに、これまで報告されていない型の抑制の長期増強(LTPi)が、FS細胞から星錐細胞へのシナプスで起こること、そしてあらかじめ視覚剥奪しておくと、それが起こらないこともわかった。これらの知見は、抑制の増強が、剥奪による視覚機能低下の主な細胞機構であること、および、この型のLTPiが視覚経験に応じた皮質回路の微調整に重要であることを示唆している。