脳:頭頂葉皮質における視覚カテゴリーの経験依存的な表現

Nature 443, 85-88(7 September 2006)
David J. Freedman and John A. Assad

カテゴリー化とは、脳が知覚刺激に意味を与えるプロセスである。ヒトは経験を通じて、刺激を「いす」「テーブル」「乗り物」などのカテゴリーに分類することを学習するが、これは行動反応をすばやく適切に選択するうえで重要である。視覚刺激の単純な特徴(例えば方位、運動方向、色など)の神経表現については、既にかなり解明されているが、それに比べて、脳が刺激の意味をどのようにして学習し符号化するかについては、ほとんどわかっていない。我々は、サルに視覚対象の360度方向の運動を2つのカテゴリーに分類することを学習させて、外側頭頂皮質(LIP)と中側頭皮質(MT)という、相互に連絡して視対象の運動の情報処理にかかわることが知られている2つの脳領野の神経活動を比較した。本論文では、視覚空間的注意や運動企画、意思決定に中心的役割をもつことが知られているLIPのニューロンが、学習の結果として、運動方向のカテゴリーを確実に反映するようになることを示す。LIPニューロンの活動は、運動方向をカテゴリーの構成要素に従って符号化し、その符号化は、サルに同じ複数の刺激を別の新しい2つのカテゴリーにグループ化するよう再学習させると変化した。対照的に、MT野のニューロンは強い方向選択性をもつが、明白なカテゴリー情報を皆無ではないにしても、ほとんど担っていなかった。この知見は、 LIPが視覚運動の方向選択性を、刺激の行動への関連性ないし意味を符号化した、さらに抽象的な表現に変換するための重要な関係部位であることを示している。