ヒトの時間感覚の形成メカニズム

ヒトの時間感覚の形成メカニズム

統合生理研究系 感覚運動調節研究部門

目の前に視覚刺激が提示された時、我々はその刺激がどのぐらいの時間提示されていたかを感じることができる。このような感覚を時間感覚と言うが、「光陰矢のごとし」という格言もあるように、ヒトが持つ時間感覚は必ずしも正確でないことが知られている。
 この不正確さの原因を探るため、ヒト視覚野における神経反応を脳磁計 (MEG) を用いて計測した。被験者は2連発の視覚刺激を見せられた後、2番目の刺激の提示時間(出現してから消滅するまでの時間)が1番目の刺激の提示時間より長いか、短いかを判断した。1番目も2番目も同じ提示時間であった場合、被験者はある時は「2番目の方が(1番目より)長い」と答えるが、別の時は「2番目の方が短い」と答える(本当は同じ長さであることを、被験者は知らない)。この2つの状況において、2番目の刺激に対する脳反応を比較した(図)。
 一般に脳は視覚刺激が出現した時と消えた時の2回、強い神経反応を示す。「長い」と答えた時(赤線)も、「短い」と答えた時(青線)も、この2つの反応のタイミングに変化は無かった。つまり脳が刺激の出現と消滅を捉えた時間は同じだった。だが被験者が「長い」と答えた時は、「短い」と答えた時より、刺激の出現に対する脳反応が有意に強い傾向が見られた。これらの結果は、脳に強い神経反応が引き起こされたとき、人はその刺激をより「長い」と感じる傾向があることを示している。言い換えれば脳反応の「強さ」という非時間的な情報を使って時間感覚が作られていることになり、ヒトが持つ時間感覚の不正確さを説明する1つの原因として考えられた。

Noguchi Y, Kakigi R Time Representations Can Be Made from Nontemporal Information in the Brain: An MEG Study. Cerebral Cortex, 16(12):1797-808, 2006.